真夜中の世界地図

男のオネショ小説

https://v.qq.com/x/page/i0394rgcj2l.html

以下翻訳してみました。ご参考までに☆


人口2000万人を抱えるこの都市でさえ、俺のような人間はあまりいない。

俺はいつも目立たないように努め、自分のことを明かさないよう気を付けている。

夕方以降、俺は水を飲まない。

しかしそれでも夜が来ると俺にはコントロールできないことがあるのだ。

人を絶望に追いやる冷たくて濡れた感覚を味わう前、
俺は他の人たちと同じように眠りの幸せを楽しんでいる。残酷な現実に戻されるまでは。

 

『実際、夜尿症は君が思うよりもはるかに多くの人が抱えてるんだよ。皆何も言わないだけで』

3歳まで、おねしょは病気ではなく正常とみなされる。

それだったら俺は27年しかおねしょの問題を抱えていないのだとでもいうのか。

『これは絶対に笑いですまされるものじゃない。
ロシアのアンドレイ・チカチーロは若いころ夜尿症を他人に笑われていた。
彼は成人後サイコキラーになり53人の子供を殺した。

例えば1990310日、ヤロシュワフ・マカロフという名の子供を
飴で誘いロストフ植物園に連れていき殺害…』

 

殆どの時間、俺の生活は普通の人と変わらない。
『このカバー外しときますか?』

『待って!!』

実際、夜尿症は主に他人に知られることがあまりにも恥ずかしいという心理的な問題だ。

他の部分はそれほど悪くない。強いて言えばシーツを洗濯することくらいか。

けれど、彼女を作ることについては本当に難しい問題だ。

『どうしたの?』

『行かないと…明日の朝仕上げないといけない仕事があるんだ』

『こんな時間から? 明日まで待てないの??』

『約束したんだ』

『ふーん』

自分の部屋の時はさらに難しい問題に直面する。

『どうしたの?』

『君、帰らないと。俺朝早いんだ』

『何時? あなたと一緒に出るわ』

『まずいんだ』

 

彼女にバレないようにオムツを着けることができれば
彼女を作ることができるかもしれないとも考えた。

 

まぁ、冗談だったしてもそうなる可能性も少しはある。

 

俺にとって、他人と長期的な関係を築くのは本当に難しいことだった。
ましてや結婚など言うまでもない。一緒に暮らすことさえ不可能なのだから。


「悠人!そろそろ始まるぞ!」
リビングから父の声がした。
俺は勉強の手を止めて立ち上がる。
今日は福田が国会で証言する日だ。
高校生(今は小学4年生だが)という
史上最年少での国会での証言にマスコミも騒いだ。
国会で証言することが決まってから短期間ではあったが
新聞、テレビで取り上げられ、
『能力区分法の犠牲者』と報じられていた。
「あ!入ってきたわ!」
母がテレビを見つめた。
予算委員会の議場に緊張した面持ちで入ってくる福田。
スーツ姿の議員の中、一人だけブレザーということもあって
余計に目立った。
付き添いの人に導かれるように用意された椅子に座ると、
福田はふうと一呼吸ついて肩を上下させた。
「それでは、予算委員会を開始いたします」
議長の言葉で雑談していた議員たちのざわめきが治まった。
「憲民党党首、磯崎義邦君!」
呼びかけに応じ、磯崎が立ち上がり悠然と証言台に向かう。
「本日は能力区分法により、非常に差別的な扱いを受けたという
 証人を呼んでおります。
 彼は高校3年生になるはずでしたが、ある事情により
 小学4年生に落第させられました。それは学力が原因ではありません。
 証人の福田拓海くん。宜しくお願いします」
磯崎に呼ばれ、福田が証言台に立った。
「え…あ…○○市立石塚小学校4年、福田拓海です」
軽く一礼する福田。
明らかに小学生には見えない少年が『小学4年生』と自己紹介する姿は
それだけで全国の視聴者に衝撃を与えたことだろう。
俺はスマホを開いた。
ツイッターにはみるみる間に驚きのツイートが上積みされていく。
「僕は今年、東石塚商業高校の3年に進学する予定でした。
 知っている人もいるかもしれませんが、
 東石塚商業高校は甲子園に時々出場しており、野球が盛んな学校です。
 僕はチームの主力として期待もされていました。
 だけど…この4月、僕は小学校に落第させられました。
 確かに野球に打ち込んでいましたが、
 勉強を疎かにしていたわけではありません。理由は…」
福田は言いよどんだ。そして一気に吐き出すように
「僕の夜尿症です」
周囲がざわめいた。驚きの声をあげる議員もいた。
「確かに僕はほぼ毎晩寝小便をします。
 幼稚園の頃から一度も治ることなくここまできてしまいました。
 この歳になっても寝小便が治らないことは正直とても辛いです。
 何より恥ずかしいし、どうして僕だけいつまでも治らないんだろうと
 情けない気持ちをずっと抱えていました…」
福田は宿泊学習、野球部の合宿、修学旅行と体験談を交えながら証言していく。
それはとても堂々としたもので、国会の証言台という特殊な場に立ちながら
緊張の欠片も感じさせない見事なものだった。
「さすが高校野球のスラッガーだっただけのことはあるなぁ…
 度胸が据わってる」
父は感心した声で言った。
「さまざまな人に支えられて僕は高校生活を送っていました。だけど…」
福田は側に置かれたコップの水を飲んだ。
「この4月から僕の生活は一変してしまいました…」
福田のその後は俺もよく知っている。
彼は大好きな野球を諦めたこと、
次第に周囲に夜尿症で落第したことが噂となり好奇の目で見られたこと、
友人が自殺しようとしたこと等最後は涙ながらに話した。
俺もテレビの前でいつしか泣いていた。涙が止まらなかった。
父はちらっと俺の方を見、口をへの字に曲げて下を向いた。
「僕の願いはただ以前のような生活に戻りたいだけです。
 本当にそれだけなんです。どうかお願いします!」
福田は議場内に響く大きな声で言うと、深々と頭を下げた。
どこからか拍手が起こった。それは波紋のように瞬く間に議場全体を包んだ。
立ち上がって拍手をする議員もいる中、
友愛党の党首、犬山だけが浮かない顔をして深い溜息をついていた。

「よかったよ。君の勝利だ」
憲民党の党首、磯崎は控え室で福田に握手を求めた。
「今まで生きてきて一番緊張しました…」
福田はふうとひとつ大きく息を吐いた。
「いやぁ…実に堂々とした証言だったよ。ウチの党に欲しいくらいだ」
磯崎は笑って福田の肩を叩いた。
「そんな…言いたいことを言っただけです」
福田は恐縮した。
「あとでウチの者に自宅まで送らせる。暫くここで待ってもらえるかな」
磯崎は秘書を呼び何か小声で話した。
「僕らなんかのために…ここまでしてもらって…
 本当ににありがとうございました」
福田は深々と頭を下げた。
「当然のことだよ。君たちは僕にとって貴重な人材だ」
「貴重…?」
「私は憲民党の党首だが、実はオネショフェチSNSの代表でもあるんだ」
「え!」
「オネショフェチとして何が何でも君たちを守り抜かなければならないからね
 これからも素晴らしい世界地図を期待してるよ」
磯崎はニヤリと笑って福田に握手を求めた。
「は…はい…」
福田はぽかんとした顔で手をゆっくり差し出した。
磯崎はその手をがしっと握ると力強く振った。
「そこでだ。実はお願いがあるんだが…」

その年の10月、参議院選挙で歴史的大敗を喫した友愛党は、第2党に転落し、
国会にねじれが生じることとなった。
能力区分法が原因であることは自明で、犬山内閣は退陣せざるをえなかった。
友愛党はあくまでも能力区分法を改正することで制度の存続を図ったが、
参議院第1党になった憲民党は世論を盾にして法の廃止を主張し、
結局友愛党もその主張をしぶしぶ受け入れた。

12月4日、能力区分法の廃止法案が可決された。
運用開始からわずか8ヶ月のことだった。
現在落第している学生は全て来年4月から本来の学年に戻されることになった。
俺と福田は来年から高3に戻れることになる。
1年遅れることにはなったが、それでも嬉しい話だった。

『甲子園おめでとう!』
次の年の夏、東石塚商業高校に復帰した福田は
キャプテンとして野球部を率いて念願の甲子園出場を果たした。
地方大会決勝にも関わらずスタジアムは満員だった。
能力区分法を廃止に追い込んだ功労者として
福田は今年に入ってから時代の寵児となった。
甘い顔立ちだったことから女性の追っかけも多数現れた。
マスコミは連日彼を特集し、メディアに出ることをしばしば要請されたが、
彼はすべて固辞した。
自分の活躍は野球で見て欲しいとのことだった。
そのため彼の出場する試合には観客やマスコミが殺到し、チケットは高騰した。
俺もできれば球場で見たかったが、結局チケットを取れず、
おめでとうメールだけ送ることにした。
「悠人!」
即座に福田から着信があった。
「あぁ…久しぶり!」
「ありがとう!甲子園決まったよ!」
「見に行きたかったけどチケット取れなかった」
「悠人なら言ってくれればチケット取り置きできたのに!
 受験忙しいんだと思ってあえて誘わなかったんだよ」
「福田の方こそ今忙しいんだろ?今や時の人じゃん!」
「忙しくはないよ。周りが騒がしいだけ。
 こんなの僕の望んだことじゃないからな…早く冷めて欲しいと思ってるよ…」
福田はうんざりした声で言った。
「でもいいこともあったよ。夜尿症への理解が進んだし」
実際あれ以来、中高生になってもオネショに悩む人がいるという事実が認識され、
またそれは夜尿症という病気だという理解が一気に進んだ。
修学旅行や宿泊研修でオネショをしてしまったが、いじめられることなく
学校生活を過ごせたという感謝の手紙を、福田も俺もたくさんもらった。
「そうだな…励ましてくれる人が増えたってことでは
 結果オーライだったのかもな」
「あれから…よくなった?」
「ん?寝小便のこと?」
「うん」
「あーそっちは相変わらずだな…今日も派手にやっちゃったし…悠人は?」
「実は若干減ったんだ…」
「ほんと!?」
「夏のせいかもしれないけど、急に週1~2まで減ってきた」
「そうかぁ…嬉しいような悲しいような…
 もし先に治っても俺のこと忘れたりしないでくれよぉ」
福田の甘えたような声に俺は苦笑した。
「そ…そんなわけないじゃんか…
 冬になったらまたひどくなるかもしれないし。
 治っても治らなくても俺は福田とずっと友達だから…」
 なぁ今度一緒にご飯でも行こうよ!」
「うん!甲子園行く前に会いたいなぁ。話したいこと山ほどあるんだ!」
二人は会う日を約束して電話を切った。

「おぉ!今日も派手にやったなぁ…」
憲民党党首、磯崎義邦は仕事を追えた真夜中、自宅の書斎で
ウイスキーをちびちびやりながら、パソコン画面を見ていた。
モニターにはオネショで濡れたシーツを剝がし布団を抱える
福田拓海の姿が映し出されていた。
「今日はこれから甲子園予選の決勝なんだろう。
 野球部のエースがこんな日の朝に寝小便して布団干してるなんてなぁ…」
ちらっとモニターの中の福田がこっちを見た。
その顔は少しはにかんでいるようだった。
「たまんないな。この顔。こんな男前が未だに
 小学生みたいに寝小便癖で悩んでるんだからなぁ」
磯崎は空になったグラスにウイスキーを注ぐ。
彼は福田に頼んで彼の部屋にカメラを置かせてもらったのだった。
もちろん彼の寝小便姿をリアルタイムに見せてもらうためだった。
こんなプライバシーを直に侵害するような行為に対し
福田は最初ためらったが、1年間という期間限定で認めさせた。
自分にもこんな覗き行為に後ろめたい気持ちはある。
でも能力区分法を廃止させたお礼としてこのくらいは構わないのではないか。
磯崎はリアルタイムに録画された今日1日の動画を
深夜帰宅後酒を呑みながら眺めるのが日課になっていた。
モニタからバタンと扉の音がして部屋の主が今出て行った。
静まりかえった部屋の中に夏の厳しい刺すような日差しが注ぎ込んでいた。


「重度の夜尿症の学生たちが軒並み小学4年生に落第
 させられている事実についてどうお考えですか?」
最大野党憲民党の党首、磯崎義邦は強い口調で述べた。
「そ…そのような運用は確認しておりません」
与党友愛党の党首であり内閣総理大臣の犬山尚吾は
汗を拭きながら言った。
「いやいや。最近各雑誌で大特集されてるでしょう?
 政府には説明責任というものがありますよ」
「だからそれは…」
「しかも夜尿症に関連する言葉を検索できないように
 していたという疑惑もありますね。
 これにはどう答えるおつもりですか?」
「それも調査中ですのでまた追って回答します」
「いつまで調査中なんですか!そんなものすぐに判る…」

俺は国会中継のテレビを消した。
雑誌が能力区分法の糾弾キャンペーンを始めてから、
次々と不当な運用の事実が明るみに出ていた。
世帯収入の少ない子供の進級をできなくさせていたり、
四肢に障害を持つ子供を学力に関係なく落第させてもいた。
俺たち夜尿症患者だけではなかったのだ。
このような運用が明るみになるにつれ、世論も急速に反応し、
7月の終わりには内閣支持率は既に10%台まで落ちていた。
死に体の内閣に勢いづく野党。
次回10月に予定されている参議院議員選挙では
与党の大敗北が予想されるほど政府は追い詰められることとなった。
俺はソファに寝転がった。
今朝も案の定オネショしてしまった。
朝5時に気づいてシャワーを浴び、布団を干し、
自分で洗濯機を回し、簡単に朝飯を食べて今の時間だ。
さすがに朝早過ぎて寝不足だったからかまた眠気がやってきた。
このソファにもところどころオネショのシミがついていた。
俺が昼寝中に失敗したことが何度かあるからだ。
いつもはシミのところにクッションを置いて、
人目につかない様にはしていた。
昼寝での失敗はさすがに落ち込んでしまう。
俺は高校生にもなっておちおち昼寝すらもできないのかと。
そんな状況だったから学校で居眠りなんて怖くてできなかった。
一度授業中に居眠りして気づいたらパンツがしっとり濡れていた…
なんてこともあった。高校生になってからの話である。
漏れ落ちるほど出なかったのが不幸中の幸いだが、
その日はショックも大きくてすぐに早退してしまった。
「今日も…やっちゃうかな…でも…もう…いいや…」
眠りに落ちそうになった時、スマホが鳴った。福田からだった。
「悠人!」
「ん?」
若干眠そうな声で俺は答えた。
「決まったよ!!」
「何が?」
「何がじゃねーよ!国会に呼ばれる日だよ!!」
「そうなのか!」
俺は起き上がった。
「明後日8月4日。とうとうテレビデビューするぜ!俺!」
「そっかぁ!おめでとう!!」
「今まで受けてきた仕打ちをもう全部ぶっちゃけてやるからな」
「これでもう政府は逃げられないだろうね」
「そうなのか?」
「政府は今まで全て『調査中』で逃げてきた。
 でも実際区分法の運用を受けた当事者が語るんだ。
 もう言葉を濁して逃げるなんてできないよ」
「そうか!俺が国を動かすかもしれないんだな!」
「そういうことだね。頑張ってよ!」
「俺たち…また高3に戻れるかもしれないな!」
「うん。」
「悠人…悠人のお陰だよ」
福田はしみじみとした声で言った。
「え?」
「あのクラスに悠人がいなかったら、俺はここまで来れなかった」
「それは…俺だって…」
「悠人がいたから俺は頑張ろうと思えたんだ。
 ほんとうにありがとう」
「俺も…ありがとう」
「俺…いつまでたっても寝小便治らないけど、
 治らなかったからこそ悠人に会えたんだって思ったら、
 寝小便するのもそんなに悪くないかなって思ったんだ」
いやいや…そりゃ治った方がいいだろ…
俺は心でツッコミを入れた。だけど福田の気持ちが嬉しかった。
「国会で証言するの、楽しみにしてる」
「おう!絶対テレビ見てくれよな!」
バイバイと言い合って電話を切った。

「部長、もう出勤ですか!?」
太世戸自動車開発部長のデスクに腰掛ける高橋を見て
部下の山下が驚いたように言った。
「あぁ。折角休みをもらったんだが、
 やっぱりここのことが気になってね。
 妻と旅行でも行こうかなと思ったんだが、
 妻は私と行くよりも友達と行きたいらしい」
そう言って高橋は笑って頭をかいた。
高橋のデスクの周りに他の部下も集まってきた。
「部長。私最初は部長のこと疑ってました。
 本当にすみません」
安田という高橋と20年以上部署を共にしてきた
部下が頭を下げた。
「私も…本当にすみません…」
皆それに続いて頭を下げる。
「いや。もう済んだことだ。頭を下げないでくれ。
 それに開発データを外部に渡したのは事実なんだ」
「え!」
高橋の言葉に驚く部下たち。
「ただ完全なデータは渡さなかった。一部改竄した。
 だが相手は少々改竄したデータならすぐに元に戻すだろう
 だから私はキーパーツになるデータを外した」
「それで赤城があんな遅くまで…」
「奴らは焦っただろう。俺が直後に逮捕されたことも誤算だった。
 逮捕される時期が早すぎたのだ。
 更に脅迫してデータを引き出したくても警察の中に居られれば
 連絡ができない」
「木津寿の奴らめ。ザマアミロだ!」
山下が言った。
実際木津寿自動車はあの記者会見で述べた事実を全て否定せざるを得ず、
それが原因で株価が大幅に下落してしまった。
太世戸自動車からデータを盗んだという一部雑誌のスクープもあり、
信用回復にはかなり時間がかかりそうだと言われている。
「でも…そのキーパーツは結局どこに隠してたんですか?」
安田が聞いた。
「ふふ。ここだよ」
高橋は自分の頭を指差した。
「あぁ…そこなら…絶対に誰にも探せない…」
「さすがだ…部長…」
皆が感嘆の声を上げた。
「最終的に私個人が関わらなければデータは完成しない
 ようになっている。いや、そういうように変えておいた」
周りから自然と拍手が起きた。
「赤城は…何でこんな馬鹿なことを…」
安田が聞いた。
「彼女は頼まれたんだ。本当の黒幕に」
「黒幕って…?」
高橋は部下を見回した。そしてゆっくり口を開けた。
国土交通副大臣、田中信久」
「田中!?この前自殺した…」
山下が驚いた声をあげた。
「赤城は田中と関係があった。愛人だったのかもしれない」
「赤城と田中!?」
高橋の言葉に皆しばし呆然とした。
「でも…田中大臣がどうしてうちのデータを欲しがるんでしょうか…」
西川という若い女性社員が言った。
「あ!田中の弟!!」
安田が手を打った。
「ほら!彼の弟は木津寿自動車の社長…」
「あぁ!!」
皆が溜息にも似た声を出した。
「ウチが開発データを発表することでライバルとして
 大きく水をあけられることを恐れた木津寿自動車の社長田中政寿は
 兄に泣きついたんだろう。どうにかしてくれと。
 田中信久は関係があった赤城を使ってウチのデータを盗み出そうと
 試みた。しかし赤城には専門的知識がない。
 それなら私を脅迫してデータを引き出させようと考えたんだ。
 私に関しての身辺調査なら大臣である田中信久なら容易くできただろう。
 そしていずれ私が背任罪で逮捕されれば私も葬り去ることができる」
「だけどそうはいかなかった…」
安田が頷いた。
「データ入手が完全に失敗してしまった以上、マスコミは必ず
 田中と赤城の関係も暴きだすだろう。そうなれば彼の議員生命も終わりだ」
「だから…命を絶った…」
安田は天を仰いだ。
「愚かな男だよ」
高橋はひとつ溜息をついた。
窓の外は雲ひとつなく夏の日差しがじりじりと照りつけていた。

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