次の日の朝も石田賢太は寝小便をしていた。
僕はさすがに呆れた。
「こいつもしかして毎日寝小便してるのか…?」
僕自身小学3年生まで寝小便が治らなかったが、
それでもその当時失敗するのは週2回くらいだった。
高校生にもなって毎日の寝小便…
「信じられないけど現実なんだよな…」
僕はスマホに向かって一人呟いた。
画面の中で昨日見たのとほぼ同じ光景が繰り広げられている。
寝小便布団の横でぐっしょり濡れたスウェットを脱ぐ石田賢太。
少し違ったのは彼の母親があまり叱ることもなく、
淡々と夢の後始末をしていたことくらいか。
昨日早退して狂ったように部屋を捜索していた息子を
慮っていたのかもしれない。
僕は昨日と同じように、
スクリーンショットをプリントアウトすると朝一で登校した。

今日の1時間目は古文。
僕は古文の教科書に石田の恥ずかしい写真を挟んでおいた。
しかも今日は2枚。
昨日夕方昼寝中に寝小便したものと今朝の寝小便写真。
まぁ今朝のは昨日と大差ないため
見ただけでは正直いつの写真なのか分からないが、
昨日夕方の写真はきっと石田にショックを与えることだろう。

今朝も石田は僕に朝飯を命令してきた。
僕は殊勝に彼の指図に従うと、コンビニの袋を渡し、自分の席に着く。
そのタイミングで1時間目のチャイムが鳴った。
皆が急いで席に着く中、僕は石田を後ろからチラ見した。
さぁ今日はどんな反応するだろう。
古文の教科書を机から取り出した石田は、
そこに紙が挟んであることにすぐに気づいたようだった。
教科書を机の真ん中に置いたまま固まる石田賢太。
そして意を決したように教科書から紙を取り出すと、ゆっくりと開いた。
しばらくその2枚の紙を周りから隠れるように凝視する石田。
そして肩を震わせ顔を赤らめると、
「誰だッ!」
と大きな声で叫んで立ち上がった。
皆が石田を振り向く。
「いっちゃん、どうした?」
川上が困惑した顔で石田に声をかけた。
「いや…」
石田は立ちすくんだまま答えない。
「昨日もどうしたんだよ?急に帰ったりして」
斉藤が心配そうに言った。
石田は何も答えず、また席に着いた。
僕は胸の中でほくそ笑んでいた。
まぁまさか『誰かが俺の寝小便を盗撮してる』なんて
口が裂けても言えないよな…
しかも昨日の夕方と今朝という立て続けに2回の寝小便。
昨日カメラがないことをしっかり確認したはずなのに
無情にもまたもや盗撮されてる…
石田の頭の中は大混乱だろう。
僕だってどうしてカメラも無いのに録画できるのか分からない。
アプリを利用してる僕でさえ仕組みが分からないんだ。
当の石田本人には今起きていることが何なのか全く理解できないだろう。
しかもその理解しがたい恐怖は誰にも相談することができない。
古文の教師が教室に入ってきた。
石田は虚ろな目で立ち上がると、カバンを持って外に出て行こうとした。
「おい、石田!どうしたんだ?」
教師が声をかける。
石田は一切何も答えず、教室から逃げるように出て行った。

今日も僕は穏やかに学校で1日を過ごせるかな…と思ったが
そうは問屋がおろさなかった。
川上と斉藤である。
「お!美味そうな弁当じゃん!」
昼食時間、僕が弁当を食べようと取り出したとき、
彼らがニヤニヤしながら寄ってきた。
「味見させろよー」
そう言うや否や二人は僕の弁当を勝手に食べだした。
「あ…ちょっと…」
あっという間だった。
凄い勢いで僕の弁当を平らげた二人はさらに、
「おい、パン買ってこいよ」
と僕に命令した。
石田が居なければ、今度はこの二人にいじめられる。
この二人が居なければ、また誰か他の奴が僕をいじめるのだろうか。
この腐った連鎖を断ち切りたい。
僕は涙をこらえながら学校を出てコンビニへ向かった。

川上と斉藤に放課後ゲーセンに付き合わされ、
家に帰って来れたのは夜8時を過ぎていた。
ゲーセンのお金は殆ど僕が出した。
出すように脅迫されたのだ。
僕だって金持ちではない。
いくらでも彼らの金を出し続けるなんて無理な話だ。
仕方なく母の財布から金を抜いたこともあったし、
自分の漫画やゲームを売って金にしたこともあった。
母は多分気づいていたと思う。
それでも怒られることはなかった。それが余計に自分には堪えた。
僕はこの二人のスクープも探すことに決めた。
さすがにこの二人まで寝小便してるなんてことはないだろうが、
人は誰も他人に言えない秘密の一つや二つ抱えているものだ。
カメラで追っていけばいつか何かが見つかるんじゃないかと思った。
彼らの家の場所はよく知っていた。
石田が二人の部屋を溜まり場にしていたからだ。
自分の部屋には誰も呼ばないくせに、
他人の部屋に上がりこんで好き放題振舞っていた。
まずは川上から…
身長170センチ、体重85キロというガッチリした体型の川上雄介は、
中学時代はラグビー部だったらしい。
彼の部屋にカメラが入り込む…
自室でゲームに興じる川上。側にもう一人いる。
あれは多分川上の弟だろう。以前ヤツの家で見たことがあった。
二人は対戦ゲームに興じているようだ。
僕はそのまま録画モードに切り替えると、宿題を片付けるため机に向かった。

その日寝る前に僕は録画したスマホをチェックしてみた。
「まぁ初日からスクープはちょっと無理だろうな…」
本当はこのままずっと撮り続けていきたいところだが、
あくまでもメインは石田だ。
石田を追い詰めるという本分のためにこのアプリを使わなくちゃ。
僕はそんなことを考えながら録画を早送りで見ていた。
夜10時、川上はゲームを止め弟が部屋を出ると、
しばらくしてDVDを再生した。
おもむろに彼はジーンズを脱ぎだす。
「やっぱりね…」
僕は溜息をついた。
できればこんなものは見たくなかったが、
対象が男である以上仕方ないと割り切るしかない。
僕はオナニー部分を早送りしようとしてあることに気づいた。
「この声…」
DVDから流れる喘ぎ声は女のものではなかった。
「え?…これ…」
僕はスマホ画面に映る川上の部屋のテレビを指で拡大してみた。
そこに女の姿はなく映っているのはガタイのいい男たちだった。
「こ…こいつホモかよ…」
僕は口をあんぐりと開いたまま画面を見た。
僕や藤川が強制オナニーさせられるのを見て川上は嘲笑していたが、
実は密かに喜んでたのかもしれないと思うと、何だか気持ち悪くなってきた。
川上はさらに全裸になり、乳首を弄りながら喘ぐ。
そしてテレビ画面を凝視しながら濃い精液をぶっ放した。
放心状態で荒い息を吐いた後、ティッシュで精液を拭き取る川上。
「いきなりスクープが取れちゃった…」
僕は画面上で繰り広げられた川上のあられもない姿に思わず呟いた。
『お前ホモなんだってな』って言いながらこの動画を見せれば、
川上はもう絶対に僕には逆らわないだろう。
僕はニヤッと笑ってこの動画を保存し、
いつも通り石田の部屋にロックオンした。
「あれ?」
僕はスマホを見つめた。
夜11時過ぎているのに石田の部屋には誰も居なかった。
静まり返った部屋。だがそこはひどく散らかっていた。
きっと今日も隅から隅まで隠しカメラを探していたんだろう。
何も出てくるはずないのに。
しばらく眺めていると部屋の外から争うような声が聞こえた。
僕は石田の部屋を飛び出し、声のするダイニングキッチンまで矢印を辿ってみた。