「さてと…次は野球部くんだな」
矢部は隣に鎮座する福田のオネショ布団に手をやった。
「福田拓海、17歳。東石塚商業高校3年生
 野球部は甲子園の常連校」
福田という名前は知っていた。1年の頃からレギュラーで
マスコミが小さく取り上げた記事を目にしたことがあった。
ある意味この街の有名人である。
そんな彼が実は夜尿症。しかも今年から小学生に落第させられていた。
彼のいない野球部は戦力的にかなり厳しいのではないのか。
矢部は彼のような実力者でも例外なく落第させられていることに驚いた。
でもそのお陰で思わぬ有名人のオネショ布団を手に入れることができた。
このまま合宿の受け入れを続ければ、
たくさんの男子中高生のオネショ布団を手に入れることができる。
矢部は喜びに震えた。
「あぁ…高校野球のエースなのに…未だにオネショ…
 恥ずかしいよなぁ…そんな恥ずかしいオネショ布団、
 オレに見られちゃってるんだぜ。
 見てみろよ…隣の高橋くんの世界地図と比べても
 大きさが桁違いじゃないか…こんなに漏らして恥ずかしくないのかよ…」
確かに福田の描いたオネショ地図は、高橋の1.5倍ほどの大きさがあった。
やはり夜中も小さな膀胱からすぐに小便が溢れ出してしまうのだろう。
矢部は溜息を漏らしながら福田の濡れた布団に顔を埋めた。
「あぁぁ…めっちゃクッセェよぉ…
 高校野球部員のオネショの臭い…めっちゃ濃い臭いがするよぉ…」
矢部はまたチンコを出しガッシガッシと力強く扱くと、
福田のオネショ布団の上に白濁液を放出した。
「はぁ…はぁ…はぁ…さ…最高だよぅ…」
矢部はそのまま福田のオネショ布団の上に倒れこむ。
鼻腔から飛び込んでくる濃いアンモニアの臭い。
この布団が乾けば茶色いオネショのシミができる。
乾いたオネショの臭いも矢部は好きだった。
今後この布団をずっとオカズにできる。
しかもタイプの違う高校生モノが2枚も。
矢部は幸福感と二人の男子高校生の小便の臭いに包まれたまま、
彼等の濡れた布団の上で眠ってしまった。

自分のオネショ布団が住職の性の玩具にされていることも露知らず、
俺は通学路を変えながら家路についていた。
俺のことは、近所でも少しずつ噂になり始めていた。
俺を見かけて急に目を逸らす近所の大人たち。
挨拶をすれば一応返してくれるけれど、どことなくぎこちなかった。
母ももしかしたら肩身の狭い思いをしているのかも…
そう考えたらとても申し訳ない気持ちになる。
でも落第が噂になっているうちはまだ幾分マシなのかもしれない。
いずれ俺のオネショ癖や
オネショが原因で落第させられた事実が噂になる日も近いんじゃないか。
そうなればもう俺はこの街に住み続ける自信がなかった。
きっといろんな人から後ろ指指されるだろう。
容赦なく子供はからかってくるだろう。
オネショを克服して元の学年に復帰しなければ、
ずっとこんな針のむしろに父母も含め僕ら家族は置かれることになる。
俺はそれを一番に恐れた。
マンションのエントランス前を抜けようとしたとき、
俺の腕が強い力で引っ張られた。
「痛っ!」
俺が引っ張られた方を向くと、
そこには無精ひげを生やした細身の男が立っていた。
パーカーにジーンズ姿だったが服はひどく汚れ、髪も油っぽかった。
「だ…誰」
「お…俺だよ!大賀だよ!大賀義之!!」
大賀と名乗ったその男はかすれた声で答えた。
最初誰だか俺には分からなかったが、
その声を聞くうちに中学のとき塾で一緒だったやつだと気づいた。
中学の頃は結構小柄だったが、会わないうちにかなり背が伸びたのか
173センチの俺と同じくらいの背になっていた。
「お…大賀!?どうして?」
俺は隣の市に住む彼が今ここにいることと同時に、
彼がえらく汚れた格好をしていることに驚いた。
いつもお洒落で小奇麗だった彼の面影が全くなかったからだ。
「頼む。シャワーを浴びさせてくれないか?」
俺は彼の真摯な懇願に思わず首を縦に振ると、
家に案内し、シャワーを浴びさせた。
母はまだ帰宅してなかった。時刻はまだ昼2時を過ぎたばかりだ。
シャワーを浴び、さっぱりした大賀を見て、
やっとあの頃の大賀に会えたような気がした。
バスタオルで頭を拭きながら大賀は、
「高橋…あとほんとに申し訳ないけど…何か食べさせてくれないか?」
大賀は手を合わせて俺に言った。
俺は何も言わず、レンジのところにあった昨日のカレーの残りを
温めなおし、大賀に食べさせた。
しばらく何も食べてなかったのだろうか。凄い勢いでカレーを平らげた。
一息ついて水をごくごく飲むと一言、
「生き返った…」
と呟いた。
「一体…どうしたのさ…」
俺はテーブルに肘をつき、勢いよく食べる大賀を眺めていた。
「悠ちゃん…落第したのか?」
大賀は逆に質問してきた。しかもとっても直球な質問を。
俺は少し戸惑ったが正直に答えた。
「あぁ。落第した」
「噂は本当だったのか…」
「どこで聞いた?」
「俺は吉田から」
吉田…彼も同じ塾の生徒だった…ということくらいしか思い出せない。
俺のことをそんなに知らない人まで噂しているということは
相当広く俺の落第は広まっているらしい。
「俺…実は…警察に追われてる」
大賀が吐き出すように言った。
「え?どうして!?」
俺の声は驚きでひっくり返った。
「嘘を書いたんだ。あの調書に…」
「調書?」
「能力区分法が始まる前に分厚いアンケートがあっただろ?」
「あぁ…」
俺は500項目もあるあのアンケートを思い出していた。
思えばあそこに夜尿の項目があったことが転落の始まりだったのだ。
「嘘を書いた。それが警察にバレたんだ」
「そ…そんなことで警察が来るのか?」
と言いかけて俺は当時担任の岩井が『虚偽記載には罰則もある』
と言ってたことを思い出した。
「そんなに嘘書いたのか?」
「いや…一つだけ…」
「何を?」
「なぁ…悠ちゃん。お前…もしかして…今も寝小便してるのか?」
俺は大賀の思わぬ質問に絶句した。
「…いや…まぁ…」
「…そうか…やっぱりそうなんだな…ここに来てよかったよ。
 実は俺もそうなんだ」
「えっ?」
俺は大賀の方を向いた。
「一つだけ嘘を書いたのは寝小便の項目なんだ。
 俺、どうしてもほんとのこと書きたくなくて、<いいえ>に丸を
 つけちまったんだよ。
 まさかそんなことで捕まったりする訳ないじゃんと思うだろ?
 でも先週警察がうちに来て任意同行を求められた」
「…」
「俺は怖くなって振り切って逃げた。
 今も警察が俺を探して厳戒態勢を敷いている。
 昔塾で一緒だった吉田に最初匿ってもらってたけど
 吉田に迷惑かけられないから昨日出てきたんだ。
 その時吉田に悠ちゃんが落第したっていう噂があることを聞いた。
 悠ちゃんに聞けば俺が追われる理由が分かるかもしれないって思ったんだ」
「…」
「もちろん薄々は感じてたさ。寝小便が原因じゃないのかって。
 でも寝小便隠したことがそんなに罪なのか?これは病気だろ?」
それだけ言うと大賀は顔を伏せて泣き始めた。
俺は彼の肩をさすってやることくらいしかできなかった。