「それじゃ、寝てもらいましょうか」
吉岡はシーツを再び掛け直すと俺たちに言った。
「私達はこのままここで見ていますので」
「そうなんですか?」
俺は思わず声をあげた。このまま出て行って
明日の朝やってくるものだとばかり思っていた。
「今回撮影は一切できないことにしています。
 だから…だからこそ瞬間をこの目で見たいのです」
「瞬間…」
「オネショする瞬間です」
そんなもの見てどうするんだと思ったが、
フェチにはたまらない光景なんだろう。
「なので掛け布団はかけずに寝てもらいます。
 この季節、風邪など引くことはないでしょう」
二人は並べられた布団に横になる。
「では、電気を消させてもらいます」
部屋の明かりが落ちる。外から仄かな月明かりが入ってきた。
自分の周りに人がたくさんいると思うと眠れない…
と思ったが隣の福田は既に寝息をかき始めていた。

「二人とも寝ましたな」
矢部はそう言いながらフロアライトを点灯させた。
間接照明に薄暗く照らされた二人の寝顔。
「ほんと二人ともかわいいなぁ…」
若い男が覗き込んで言った。
「武井さん。触ってはダメですよ」
吉岡が静かに制止する。
「分かってますって」
武井と呼ばれた若い男は舌打ちした。
「このままこっちも眠っちゃいそうだなぁ…」
参加者の誰かが言った。
「正直いつその時が来るのかは分かりません。
 だけど今日眠ったら多分一生後悔しますよ」
矢部はニヤッと笑った。
「今日はあの方も来られる予定です。
 かなり遅い時間になるとは思いますが…」
矢部の言葉に、
「あの方って…代表ですか?」
誰かが言った。
「そうです」
おおーっ!と驚きの声が上がる。
「静かに!起きてしまいますよ!」
吉岡が人差し指を口に当てた。
再び静寂が戻る。
野山に囲まれたここ禅塔寺の夜は粛々と更けていく。
参加者は時折ひそひそ話をしながらその時が来るのを待った。

早く…終わらないかな…
福田拓海はベンチで不謹慎なことを考えていた。
夏の高校野球県大会決勝。
東石塚商業高校は相手校に2-4で負けていた。
既に9回裏ツーアウト。ランナーは一人もいない。
バッターボックスには池山が立っていた。
普段だったら池山の一振りに希望を見出したいところだったが、
今はそんなことどうでもよかった。
とにかくトイレに行きたかったのだ。
6回くらいから感じ始めた尿意。
最初はそれほどでもなかったが、
9回に入った途端、最大級の尿意が襲ってきた。
9回表の守備が終わったらすぐにトイレに行くはずだったが、
監督に呼び止められ、作戦についてあれこれ言われたために
結局トイレに行く機会を逃してしまった。
池山が終われば解放される…彼には申し訳ないけど
今は彼が凡退に終わってくれるのを願っていた。
おお!!
そのとき不意にグラウンドが歓声に沸いた。
池山がセンター方面に弾きかえしたのだ。
あぁ…
福田は盛り上がる周囲のメンバーを尻目に唾をごくりと飲んだ。
次は2年の有田。
有田…申し訳ないが次こそ終わってくれ…
俺は手を合わせて願った。
しかしそんな願いも空しく有田は初球を豪快に振り、
打球はレフトの頭上を抜けて落ちていった。
超満員のスタンドが否応なしにも盛り上がる。
あと…あと一人なのに…
相手ピッチャー何してんだよぉ…
福田は寄せては返す最大級の尿意の波に
時折股間を人に見られないように揉みしだきながら堪えた。
これでツーアウト1、2塁。
次の酒井がもしもヒットを打ってしまったら
福田に打順が回ってくる。
スカウトが注目するほどのスラッガーである福田に
周りの期待と視線が注目することは必至だった。
だがこんな尿意限界な状態でどうやって結果を出せというのか…
酒井…もう終わろうぜ…
福田は祈るような気持ちでバッターボックスを見た。
酒井はどんなボールにも喰らい付いた。
福田に嫌がらせをしているんじゃないかっていう位に粘る酒井。
ピッチャーとの根競べ勝負は続く。福田は我慢の限界を超え始めていた。
もともと大きな膀胱ではない。周りにいる普通の高校生なら
我慢できる尿量でも福田には難しかった。
そしてピッチャーの10球目。
酒井はショート方面に高く打ち上げてしまった。
ああっ!
ざわめきが球場を包む。酒井の表情が歪んだ。
よかった…これで終わりだ…
俺はほっとして気が緩んだせいか、
少しだけスラパンに小便が漏れるのを感じた。
や…ヤバい!!慌てて股間に手を当て括約筋を締め直す。
誰もが終わったと思ったその瞬間、
事もあろうことかショートの選手がボールをグラブに入れ損なった。
わあああああ!!
球場に巻き起こる大歓声。
9回裏二死満塁で福田の登場という
まるでドラマみたいな筋書きが現実になってしまった。
「あとはお前に任せた。好きに振って来い!」
監督はそう言うと福田のケツをポンと叩いた。
うぐ!!
その刺激が膀胱にダイレクトに響く。
またもやスラパンに少量ちびってしまった。
福田は必死に括約筋を締める。
ゆっくりとバッターボックスに向かう。
できるだけ尿意を悟られないよう普通に歩いたつもりだったが、
相手キャッチャーは訝しげな顔をこっちに向けた。
もう福田はバットを振る余裕もなかった。
振れば絶対に括約筋は崩壊するだろう。
ピッチャーは福田に対し臆することなく
鋭い球を2球続けて放ってきた。
福田は成すすべもなくその場に立ち尽くす。
あっという間にツーストライクになってしまった。
呻きと悲鳴、歓声の入り混じる球場。
もう…振るしかないのか…
次の球は外してくるだろう。でも…その次は…
案の定3球目は外しそして4球目。
ど真ん中のストレートだった。振らないわけにはいかない!
福田は渾身の力をこめてバットを振った。
そしてその衝撃で膀胱が一気に決壊した。
あ…あ…あぅ…あぁぁぁぁ…
福田はバッターボックスに立ち尽くしたまま小便を漏らした。
スラパン、野球ユニ、アンストを侵食し
溢れ出す小便を福田にはもうどうすることもできなかった。 
キャッチャーが驚いた目で福田を見上げる。そして後ずさりした。
一方打球はセンターの頭上をぐんぐん越えていく。
センターが必死に打球を追い手を極限まで伸ばす。
キャッチした。あわやホームランという当たりを見事にキャッチした。
「終わった…俺も…試合も…」
大歓声に包まれながら福田は目の前が段々暗くなっていくのを感じた。

「ちょっと!福田くんの表情が!」
吉岡が小声で叫んだ。
眠りに落ちそうだった参加者も弾かれたように目を覚ます。
「これは…」
「苦しそうですね」
「小便我慢してるのかも…ほら股間に時折手を当ててる…」
「来るのか?!」
参加者は色めき立った。
福田は苦悶の表情を浮かべながら身体を小刻みに動かしている。
「今…午前1時前ですよ」
「結構早い時間ですね」
「夜尿症としては重度だな…」
皆が口々に言う。
「あ!シミが!!」
誰かが福田の股間を指差した。
福田のグレーのスウェットにポツンと黒いシミが現れた。
福田は一層顔をしかめると、股間を手で押さえた。
「我慢してるんですかね」
武井が言った。
「どんな夢見てるんだろう…トイレ探す夢だったら胸熱だな」
矢部の声は上ずっていた。