作品を置いていたサーバーがサービスを終了してしまったため
それ以降読むことができなくなってしまってました。
今回新たにPDFでまとめたので、よかったら読んでみてください。
(原題:夢の旅人より改題)
夢の番人
「岡崎。いいのが出てるみたいだぜ」
LINEを開くと、星野のメッセージとともに、あるニュースのリンクが貼られていた。
裕之は画面をタップした。
『先月15日、ユニ・○ャームから「オヤスミマン・ジュニア」が発売された。現在販売されている小児用紙おむつの中で最も大きいサイズである、「オヤスミマン・スーパービッグ」の更に大きいサイズとして開発された。「オヤスミマン・スーパービッグ」は主に小学生を対象としており、中高生の夜尿症患者やその親から、さらに大きなサイズの発売を期待されていた。ユニ・チャー○の広報担当は、「おねしょに悩む中高生からの要望は常にありました。思春期という多感な世代であることに配慮して、オムツ感を感じさせないデザインに仕上げてあります」と話している。』
横にはボクサーブリーフを思わせる下地が黒に白のラインが入ったものと、カットオフジーンズを模したデニム柄の「オヤスミマン・ジュニア」の写真が入っていた。
裕之はスマホを机に置くと、クローゼットを開いた。そこには「オヤスミマン・ジュニア」が2袋、鎮座している。星野に教えてもらうでもなく、既に先月、手に入れていたのだった。
裕之は袋から一つ取り出し、穿いてみた。パンツタイプなので穿くのに手間はかからない。穿いたのはデニム柄だった。
ジーンズと同じく、フロントにはボタンやコインポケット。ケツ側にも大きなポケットとステッチがある。
だがそれは全てオムツの上に描かれたものだ。ポケットは使えないし、ボタンは外せない。
おねしょに悩む中高生に配慮した…とは言うが、むしろ配慮されれば配慮されるほど悲しくなる。この歳になっても夜のオムツが取れないことを隠すため、ありもしないボタンやポケットがでかでかと描かれているのだ。
じゃあこれを穿けば友達と旅行に行けるのか?この姿を見た時、「ジーンズを穿いてるんだね!」と思ってくれるのか。
鏡に映した自分の姿を見て「それは無いだろう」と裕之は思った。
そこに映っているのはあくまでもデニム柄のモコっとしたオムツであり、誰が見てもそれと分かる。
小便を吸い込んだらもっとオムツ感は増すだろう。結局こんな柄なんて気休めにしかならない。周りの人を騙せるのならこの柄にした意味もあるんだろうけど。
裕之は「オヤスミマン・ジュニア」の上からスウェットを穿いた。
高校2年生になっても未だに治らないおねしょ。
星野におねしょのことがバレてから2年。相変わらず週3回ペースのおねしょが続いていた。
星野はクラスの皆に言いふらすようなことはしなかった。おねしょのことは根掘り葉掘り聞かれたけれど。裕之は答えたくなかったが、答えなければ言いふらされると思い、星野には逆らわなかった。
星野の前でオムツを穿いて見せたこともあった。家に呼んで乾いたシミ付きのおねしょ布団を見せたら「ションベンくせ~」と言いながら鼻をつまんで笑っていた。
さんざん馬鹿にされたけど、それでも星野は裕之の秘密をずっと守ってくれた。
中3の修学旅行には参加しなかった。星野はさすがに気の毒に思ったのかこっそりお土産を買って渡してくれた。
中学を卒業し、互いに別々の高校に通うようになってからは疎遠になった。だが時々思い出したように星野からLINEが来た。さっきのLINEもほぼ半年ぶりだった。
「これ普段のパンツ代わりに穿けばいいじゃん」
星野からLINEが来た。
「もう使ってる」
裕之が初めて返信すると、
「マジ?ウケる 穿いたところ見せろよ」
星野の命令に裕之は面倒だと思いながらも今穿いたばかりのスウェットを脱ぎ、オムツ姿の写真を撮って送信した。
「これジーパン?写真ならバレないんじゃない?」
星野の適当な感想を聞いたところで裕之は眠りについた。
次の日の朝、裕之は股間に違和感を感じ目が覚めた。
オムツを穿いていたにもかかわらず、スウェットと布団がぐっしょり濡れていた。穿き方がよくなかったのだろうか。久しぶりに布団を汚してしまった。
裕之はオムツのまま立ち上がり、濡れたスウェットを脱ぐと、世界地図が描かれたシーツを剝ぎ取り、丸めて洗面所に直行した。
最悪なことに洗面所では父が髭を剃っていた。
洗面所の鏡越しに二人の目が合う。
「また寝ションベンか。てゆかお前世界地図描いたんか」
裕之は首を縦に振った。
「お前高校生にもなって何世界地図描いてんだ。オムツしてんじゃねーのか」
父が声を荒げた。
「したけど…」
「性根腐ってんな。叩き直してやる。来い!」
父が裕之の右腕を掴む。持っていたシーツとスウェットが床に落ちた。
父は裕之の部屋まで来ると、鎮座しているベッドの世界地図を忌々しそうに眺めてから、ベッドの端に座った。
「おい。ここに来い」
父が自分の太ももを指さした。この上にうつ伏せになれという指示だった。
「父さん。ごめんなさい」
裕之は頭を下げた。
「うるせぇ。早くしろ!」
裕之は諦めて父の太ももの上に尻を向けて伏せた。その途端父がデニム柄のオムツをずり下した。ケツがあらわになるのが分かった。
ビターン!
父の平手が裕之のケツに炸裂した。
「痛いっ!」
裕之の口から思わず声が漏れる。
「こんなジーパンみたいなオムツ穿きやがって。お前には赤ちゃん用のオムツで十分だろ!」
ビターン!
「いつまでこんなもの穿いてんだ。高校生にもなってまだオムツ取れねえのか!」
ビターン!
「いい歳して親父に寝ションベンのお仕置きされて恥ずかしいと思わんのか!」
ビターン!
裕之のケツはみるみる間に真っ赤になっていった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
裕之はそう叫ぶしかなかった。
結局20回ケツを叩かれた。
裕之は真っ赤になったケツを気遣いながら、本当のボクサーパンツを穿いた。
父にお仕置きされたのは実に2年ぶりだった。高校生になったらさすがにお仕置きは教育上よくないと父が考えているのだと思っていたが、それは大きな間違いだった。
「これからは布団に世界地図描いたらお仕置きをする」と最後に宣言して父は部屋を出ていった。
「布団に世界地図描いたら何のためにオムツしてんのか分からんだろうが!」
というのが父の言い分だ。
『夜間8回分のオシッコを吸収!』
「オヤスミマン・ジュニア」のパッケージ文句が目に入った。
裕之は大量の小便を吸い込んだデニム柄の「オヤスミマン・ジュニア」を勢いよくゴミ箱に捨てると、学生服のブレザーを羽織った。